TBS齋藤泉先生による 「テレビの報道 その視点と未来」
2022年11月10日(木)、TBSの齋藤泉先生の講演がオンラインで行われた。テーマは「テレビの報道 その視点と未来」だ。
齋藤さんは、1988年にTBSに入社。「オウム真理教事件」では特別取材班で事件の特異性や若者たちの心の闇の問題などを取材した。また、『筑紫哲也NEWS23』では、ホスピスのボランティアに密着したドキュメンタリー『死を看取るボランティア』をはじめ米国同時テロのシリーズ企画『9.11世界が変わった日』などを担当した。2005年から、解説委員を兼務。東日本大震災の後は福島第一原発の廃炉現場の取材を継続、2014年4月から2年間、『報道特集』に在籍した際に、番組プロデューサーを務める一方で、福島第一原発の「廃炉と復興」の実態を取材し、『燃料デブリに迫る』『カギを握る人材育成』など4回シリーズで放送した。現在は報道局などのコンプライアンスを担当している。
村上ゼミとの付合いは、2019年、9期生が「2019年台風19号 茨城水害報道の研究」の際、お世話になった。自身が答えるだけでなく、当時の本部の部長や報道番組のプロデューサーまで紹介いただいた。9期の研究は、コロナ禍の調査で大変だったが、齋藤先生のおかげで、テレビ(TBS)が台風19号をどう報じようとしたのかよく分かったと、評判になる、成果をあげることが出来た。
以来、「ウクライナ戦争をどう考えるか」などの相談など、ゼミ生の相談に乗っていただいている。今回の講演会に先立ち、村上先生と齋藤先生は、「打ち合わせという名の・・・」を開催、ワイン好きの2人は、東京駅近くの南イタリアの店で打ち合わせをしている。数年越しのお付き合いながら、なんと今回が「初めての対面飲み」だったという。コロナ禍のこの3年、時間の長さがわかる。もちろんただ楽しく飲んだだけではなく、テレビ報道についてゼミ生にとっての学びは、テレビ報道の可能性と未来など、具体的な部分まで打ち合わせしたという。
さらに、講演会担当のゼミ生も、on-lineではあったが、事前に3回の打ち合わせをした。オンラインでの開催ということもあり、講演会をスムーズに進行するため、当日の流れを念入りに確認し、当日を迎えた。学内でポスターを貼って告知したこともあり、ゼミ生外の参加者もいた。
第1部「テレビ報道の意義」
講演は、テレビ報道の意義・役割から始まった。
テレビ報道の強みから、テレビ報道の意義について講演いただいた。まず、テレビ報道の一番の強みは、なんといっても生中継という即時性だ。1972年に起きた「あさま山荘事件」では、犯人側と警察のやりとりや鉄球で山荘を破壊する様子がテレビで生中継された。民放、NHKを合わせて視聴率89.7%を記録した。また、1985年に起きた日航ジャンボ機墜落事故での現場からの映像も、生中継がされ、生存者を救出する様子が放送された。
次に、テレビ報道のもう一つの強みは速報性だ。「国民の身体・生命と財産に関わる」かどうかという基準からニュースが判断され、速報がなされる。大地震やJアラート、大災害等の際は、枠をこじ開けて特別番組が放送されることもある。そして、編集してわかりやすく伝えるということも、テレビ報道の強みだ。当事者へのインタビュー、CGによる再現、ナレーションなど、映像を編集することで視聴者にわかりやすくニュースを伝えることができる。
続いて、「テレビ報道はどのような仕組みで放送されているか」から始まる、テレビ報道の仕組み・組織について。TBSの報道局では、全体を統括する編集部、社会部、政治部、経済部、外信部、映像取材部(カメラ)、番組部、調査報道部、デジタル編集部、業務計画室といった組織から構成されている。
現状と今後の可能性
インターネットによって、ニュースの取材方法は大きく変わったという。かつて、ニュースの第一報は警察当局や行政からの発表が多かった。しかし、現在ではtwitterなどを通じて、現場からの投稿がされ、映像がリアルタイムで入るようになった。
テレビの即時性も、現場に居合わせた一般の人のSNSの方が早い。さらにそれは全世界から飛び込んでくる。2021年7月に起きた熱海の土石流災害では、土石流が流れる様子を撮影していた地域の人々が多くみられた。さらに、一般の人の撮影技術もアップしている。(と、実際の映像を見ながら説明)。その為、報道各社は、ネット班を設置し、SNSからの情報をカバーしている。
テレビ報道は「コストがかかるが、売り上げに貢献していないという側面がある」という。そこでコスト削減が求められる。また、長期的に見れば、「若者のテレビ離れ・報道離れ」という課題がある。
今後、動画やデジタルコンテンツへのシフトが加速化する。デバイスとしてのテレビ離れは進んでいくが、今後も映像ニュースに対するニーズは変わらないと指摘する。「テレビというメディアにこだわらずに、映像にこだわることが大事だ」と、力説した。
第2部「齋藤先生の取材」
第2部では、取材やテレビの報道に関し、ご自身が担当した日銀・金融担当当時の記者の仕事を例に、取材対象との向き合い方、距離のとり方・縮め方など、具体的に説明していただいた。「取材の基本として、取材相手とは適切な距離を取りながら、信頼関係を築くことが大事だ」という。だが、「取材相手は手ぶらでは何も語ってくれない。ギブアンドテイクの関係である」と、話す。
最後に、テレビ報道とSNSの第一報とどこが異なるのか、それは「ジャーナリズムの精神として、「5W1H」+もう一つの「W」が必要だ」と話した。先生との打ち合わせで、「村上先生はすかさず、5W2Hもありますねって、How much?のH。それも大事!」と、笑いを誘った。その後、「もう一つの「W」とは、「WILL」=強い意志であり、“これを取材するぞ!”という気持ちが大切」。そこがプロの報道と、その場にいて録ったSNSとの違いなのだと、熱い想いを語り、締めくくった。
―― 多くの学び ゼミ生の感想
4年(10期)五十嵐宇応)ネット時代やコスト削減が求められている時代とはいえ、現場に
行くからこそ伝わるものや一般人が行けない・知れないからこそ、伝える必要がある物
事は少なくないだろう。そして、それらがテレビというメディアだからこそ、今起こっ
ている事実として信じることが出来る側面は大きい。テレビ自体を見なくなりつつある
時代だとしても、テレビが持つこうした力はこれまでの積み重ねの賜物であり、不変で
あると感じている。
3年(11期)浅沼優衣)「WILL=「強い意志」だという齋藤先生のお話を聞き、ジャーナ
リズムの精神の本質を改めて学んだ。自分で知りたい、取材したいという気持ちが大切
なのだ。忘れがちだけれど一番大切な「W」である。これは、ジャーナリズムだけの話
ではない。私もこれから取り組むプロジェクトには、「5W1H+W」として強い意志を
もって取り組んでいきたいと思う。
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